■(5)「世界の見方」を伝えていくこと
鎌田:茂木先生のお話を聞いていると、技術的な仕組みや規制といったハード面より、子どもたちの内面を養うこと、その環境づくりこそ必要という気がしています。
茂木:そうなんですよね。インターネットの世界ではとかく技術論やメディア論が先行してしまいますが、使うのが人間である以上、一人一人の精神性やフィロソフィーから育てていくべきだと思います。
先ほど、僕なりの情報モラルとして「社会に貢献できるか」というお話をしましたが、もうひとつ、インターネットとの関わりの基準で「新しい価値ある文化をつくることであるか」ということも考えています。だから、僕は「2ちゃんねる」には関わらない。2ちゃんねるは新しい文化かもしれないけれど、価値ある文化かどうかは僕の中では判断ができないからです。
価値を見いだせない理由――これは2ちゃんねるに限らない話ですが、日本のBBS(掲示板)サイトには公共性が欠如している印象があるのです。ブログなどもそうですが「インターネットは公共のものである」という認識のない文章・情報が目立つ。もちろん意識して情報発信している人もいますが、一般ユーザーレベルだとその情報のレベルはかなり低い。
BBSで発言をすること、ブログを書くということはインターネット上にある種の情報を付け加えるということであり、世界につながっている以上そこは人類共有のパブリック・スペースです。でも、日本人はブログ一つを見ても、自分の日常的なつぶやきとかが大半であり、社会に対しての発言という意識が希薄です。そういう文化からはウィキペディアは生まれてこない。ウィキペディアはパブリックの意識が高いアメリカだからこその産物だと思います。
日本のインターネット文化が世界的な波及力を持たない理由は、個人の社会に対する価値観、倫理の脆弱性にあるのではないでしょうか。たとえば日本ではバラク・オバマは出ないと昨年あたりよく言われましたが、日本の国民のコミュニティや社会に対する価値観が成熟していないことを端的に述べた言葉だと思います。
では、社会に対する価値観を養うにはどうすればいいか。それには読書や社会との関わり、つまりインターネットの外側の世界で子どもたちが広い教養、素養を身につけることしかないんです。
きちんとした価値観をもっていれば、有害サイトやつまらない批判、風評に惑わされないで済むし、悪口や下世話な話も価値のないことを書き込まなくなる。引いては悪質サイトに対する一番の抑止力になり、インターネットの健全性を保っていくことにつながると思うんです。
僕は“悪貨が良貨を駆逐する”ではなく“良貨が悪貨を駆逐する”世の中になることを期待したい。そして、日本の多くの子どもたちが世界に通用する価値観をもつことは、将来的な経済活動や国力のポテンシャルアップにもつながる。暗いニュースが多い中、希望をもてる未来へ向けた大きなかけ橋になると思います。
だからこそ、今本当に必要な議論は、子どもたちがどういう価値観をもつべきか。「世界の見方」をどう伝えていくかではないでしょうか。これは行政やサービス側だけでなく、すべての教育者、すべての親御さんが考えていくことだと思っています。
この号終了
(鎌田真樹子 株式会社魔法のiらんど 安心安全インターネット向上推進室 室長)

